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kaikan小説 3 |〜ワインごしのうそ〜

デーユースで入ったわりと豪奢なビジネスホテル。カーテンを全開に開けて、秋の緩やかな日ざしが憂鬱になるほど眠気をそそる。
素肌に清潔とゆう名前がしっくりくる真っ白なガウンを羽織って20階からの景色を独り占めをし、赤ワインを飲んでいる。
優雅すぎるし……。と、目を細めつつ思ってみる。

あたしは超金持ちのセレブで旦那はIT会社の社長。子供はまだいないけれど、旦那とは仲良しだし、海外旅行にはゆくし、奈緒は専業主婦家のことだけをしてくれればいいよ。え? お小遣いが足りない? なにが欲しいんだ。え? シャネルのピアス? そんならついでにバックや服も買っておいでよ。青山あたりまで出るんだろ? おっと、じゃあそこらへんで高級フレンチでも食べようか。ワインはやっぱり赤だよな。奈緒。う、うん。あたしはおそろしいほど蔓延な笑みを浮かべて目尻を垂らす。

と、ゆう妄想に浸ってしまうではないか。現実的にそのような暮らしをしている同性がいるのかと思うと蹴ってやりたくなるし、シャネルのバックを盗んでやりたくなる。

あたしは未だに独身だ。アラサーってやつ。アラサーちゃんなんてゆう漫画があったけれど、あの漫画に出てくる『アラサーちゃん』にあたしは似ている。尻と胸が無駄にでかい。色気などはないと自負しているけれど、会社(小さな印刷会社)のオトコどもの卑猥な視線にいつも犯されているのでお金を搾取したい。

彼氏もいなければ、特に趣味もなく、安月給はだいたい性感マッサージ代とホテル代と酒代に消える。異性に身体を触ってもらう至福はなにごとにも代えがたい。じゃあ、そこらの整体でもいいじゃないか。おじさんがひとりで切り盛りしている安い料金で施述をしてもらえるところでもさ。と、ゆうのとはまた話が違う。なにせ凝っているところから違う。肩や腰や脚の裏とか頭ではなく、心が凝っているのだ。心の凝りは普通の整体院では叶えられない。そこで流れ流れて行き着いたのが、性感マッサージの世界なのだ。

今日は有給で会社を休んだ。有給でって? なんだかせこく感じる。まことさんには「えっと、今日はね、さっきまで映画を見てお友達とランチしてきたんのよ。おほほ」と、いう気持ち悪い笑いも添えてそう話そう。まことさんには、『ちょっと金持ちなセレブ系』で通してある。嘘をついているのだ。小さな会社の事務員でオタクで友達が猫しかいなく、妄想で生きているなどと口がさけてもいえない。見栄を張るのも存外いやではない。あたしはこの時間だけはセレブになりきれるのだから。

コンビニで買ってきたワインを隠し、ちょっと高額なワインを窓際のテーブルに置く。冷蔵庫にはワイングラスを冷やしてある。よし、完璧。あたしは少しだけグラスに残っているぬるくてまずいワインを一気に飲み干した。

 

________

「どうですか? 最近お体の方は?」

「え、ええ。最近、夫にね肌が綺麗っていわれるのよ。おほほ」

とても気持ちの悪い声で笑う。自分でも吐きそうになる。まことさんは、それはよかった、と、鷹揚な声でつぶやいて

「奈緒さんはもともと肌綺麗ですもん」

背中にオイルを滑らせながら口もついでに滑らせる感じがしないでもない。上手にオンナ心を読んでいる。あたしの肌は別に綺麗ではない。汗疹も出来ているし、なにせ毛深い。

「ありがとう」

なんの脈絡のない言葉はあたしを素直にさせる。嘘のつきあい。けれど一体あたしはなにに嘘をついているのだろう。なんの利害もない相手にまで嘘をつくし、見栄を張る。なんで。まことさんの他のお客よりも見栄え良くうつりたいし特別に見られたいからなのか。わからない。

「あのね、まことさん」

今は脚にオイルを垂らされている。訊きたいことがあって呼びかけた。

「はい」

さすがにプロ。口を動かしつつ手も動かす。あたしは続ける。

「あのね、こんなこと訊いても本当のことをいわないってわかっているのね、けれど、ひとつだけ質問です」

「はい」

「彼女いるの?」

そう言葉にした途端、まことさんの手がとまる。ええ? 図星だったの? まことさんは嘘をつけないタイプに見えるし。3秒くらい、いや4秒くらい間があって

「いないですね。今は。仕事で必死ですし。なにせ余裕がありませんよ。女性は奥が深い」

そう。あたしは短くあまり深入りしない程度にこたえた。

「もし、あたしが彼女だったら、嫉妬で狂いそうね。きっと」

え? と、小さく声がして、あはは、と、まことさんはおおげさに声をあげて笑った。

「奈緒さんだって旦那さんに内緒できているでしょ? 最後まではないにしたって、男性に身体を触られるとゆう時点で僕だったら嫉妬ですよ。逆に」

へー。あたしはまた興味なさげに聞き流した。

彼女がいようがいまいが嫁がいようがいまいが、性感マッサージの仕事は特殊なので特殊だからこそ気を使うのだ。あたしもまことさんのなんとなく背負っているものがわかるような気がしないでもない。

仰向けになるとまことさんは胸を隠す。大きな胸は自慢でもないが乳輪もデカイので最初に胸はNGだと伝えた。えー。そんな女性初めてだし。まことさんは最初おどろいていた。さして乳首は感じないし、とゆうのはまんざら嘘ではない。

白魚のような指で陰部をなぞられる。ゆっくり、ゆっくり、そしてしっかりと陰核をさわる。あん、腰を浮かしながら声を上げ、下半身がまるで別の生き物にでもなったみたいに浮遊する。ローションを垂らされあたしの股の中に腕を入れ腕で陰部を愛撫する。何往復もする腕に他意はなくただ快楽を与える武器になる。挿入などおまけにすぎない。愛撫がしっかりしていれば、あたしはどこまでもイケるのだし、オンナであることを確認できるのだから。

 

「ワイン飲まない?」

「ええ、少しなら」

施述を終えたまことさんがはがすがしい顔をしている。ああ、終わったとゆう達成感と安堵感なのだろう。多分夜は、一杯やるかぁ! と叫んでいそうだ。

はっ! 窓際に置いてあるワインは高価ではあるが、見せもの化したワインに成り上がてしまい冷蔵庫にしまうのを忘れていた。なんでまたこんなときに見栄を。見栄晴? あたしは急に笑いがおとずれて、クスクスと笑う。

「てゆうか、僕テーブルの下に置いてあるワインの方が好きなんですよ。奈緒さん」

まことさんの顔をまた見る。やっぱり嘘はついてない目だった。あたしは顔から火がでそうになるも、出てしまい、顔を両手で覆い

「やだぁ、やだぁ、もう、もう、」

なんだか意味不明な言葉を叫んでいた。

この記事を書いた人

エロいことが好きな謎の風俗ライター。 ミリオン出版『俺の旅』コラム連載。 趣味 読書