• 徹底排除宣言

kaikan小説 34|ホンキでスキに

最初は興味本意のなにものでもなかった。けれど、ネットの中の彼は至極素敵にみえ、ぜひネットの中でなくほんものに逢いたくてスマホを握った。

電話をするのがとても躊躇われてまずはメールを送った。その後すぐにこっちが戸惑っている隙すらもあたえず電話がかかってきた。

『あの、突然すみません。今、メールくれた方ですよね?』

ご都合がよいときにお電話をくださいという言葉と携帯番号を添えてあった。だからなのか本当にすぐ電話がかかってきたので戸惑うよりもさきその低音ボイスに荒波のごとく引き寄せられた。

『は、はい、えっと、そうです』

『そうですか。こうゆうお店は始めてですか? 好みは? 癒し系? マッチョ系? お笑い系?」

電話の彼は矢継ぎ早に続けるので、あたしの入る余地はなく黙っていたら

『あれ? 聞いてます?』

と、声をひそめられた。

『あ、はい。すみません』つい、癖で謝ってしまった。彼は、ははは、と、笑いつつ、『なに謝ってんねん?』と、くだけた口調で笑われてしまった。

『てゆうか、ほかのキャストさんも見ました。けれど、オーナーのりゅうさんにあいたいんです』

あたしは勇気を振り絞って一息にいった。沈黙になった。ハーッと息を吸う音がしてりゅうさんが話し出した。

『実は、僕はもう現場には出てないんですよ。裏手に回りましたから。って、いうのは本当ですが、別にいいですよ』

僕は少しだけ値段が高いですよ、と、笑いながら付け足す。

構いません。うれしいです。あたしは本当にうれしくてほとんど叫んでいた。りゅうさんはそれから一週間後あたしのアパートに来てくれた。ネットにのせてある写真は宣材写真でプロに撮ってもらったといって、なぁ、実物はそれほどでもないやろ? と、謙遜した態度をとった。あたしは首をかなり横にふって、とんでもない、と、頬を赤く染めた。とんでもないってなんや? りゅうさんはまた笑う。

「そっち面白いなぁ」りゅうさんはいつの間にか関西弁が出ていた。自分では気がついてないようだった。32歳という年齢も魅力的だったしなにせ素晴らしい体躯。顔はたれ目で愛嬌がある。サングラスがよく似合いうっとりと見入ってしまうほどだ。

「ハナっていう名前って本名なん?」

名前について聞かれるとは思っていた。あたしはうなずく。

「たちばなはなこ」

「あ、へー」

でも、花子はあまりにもいやだったので普段でも『華』です、といってるの、と、話した。

「かわいいじゃん」

同じ歳とはいえないままあたしはりゅうさんと裸で抱き合った。りゅうさんの背中には般若の刺青が一面に入っていた。けれどあたしの背中にも竜が渦を巻いている。般若と蛇がにらみ合い絡み合う。りゅうさんはあたしを唖然とさせるほどプロの仕事をした。般若は薄っすらと汗ばんでいた。あたしの背中の蛇は泣いていた。

それ以来りゅうさんを独占したくてとりつかれたように何度も呼んだ。あげく「つきあってほしい」とまでわがままをいって困らせ、泣きついてしまったこともある。りゅうさんはけれどお金はきちんと要求をした。僕はあくまでも仕事で来ているんだよ。そんな姿勢は微塵もくずさなかた。

もどかしくてどうしていいかわからずあたしはいつも渇望をしていた。お金で動くスキな男。だからお金がないとあえない不甲斐なさと寂寥感。会うのにお金がいる関係はあたしの心を徐々に腐らせていった。

きりがない。しがない建設会社の事務員だ。お金など続くわけがない。

あたしは意を決してりゅうさんを忘れることにした。会わなければいい。連絡をしなければいい。それだけだ。

般若の刺青に秘めた思い。りゅうさんに聞いたけれど忘れた。そうやって徐々に彼のぬくもりも消えていけばいい。

思い出はきっと色褪せないけれど。

この記事を書いた人

エロいことが好きな謎のアダルトライター 基本的には眠ることが一番好き