• 徹底排除宣言

kaikan小説 32|きらいにならないで

『あのぅ、初めて利用するのですがぁ……』

男性とつきあったこともなく男性と喋った記憶など小学生以来ないくらい男性との接触がないまま40歳になっていた。女子校のうえ、女性ばっかりの職場に配属され内気な性格上友達も出来なくてこのまま死んでくのかなぁ、と、考えていた矢先で知った《女性向け風俗店》

『はい、大丈夫ですよ』

電話口の人は女性だった。『初めての方たくさんいらっしゃいます』女性の声は快活そうであかるい声だった。不安などなにひとつ感じさせない。『どのような男性が好みですか?』さらに女性は続ける。

『どのような、ですか』

『はい、タイプです』

あたしを見ても笑わない人なら誰でもいいです。

『おまかせします』

『わかりました』淡々と話しは進み、今、ホテルの一室でおすすめのホスト(みすずくん)を待っている。

あたしはかなり太っている。かなりというかものすごく。あげく摂食障害で過食症。あたしはいったいなにを望んでいるの。

時間どおりあらわれた(みすずくん)は、えっ? と逆の意味で見紛うほどそこらへんにいる男の人だった。えっ? そんな顔をしていたのだろうか。みすずくんが、あはは、と、声をあげわらう。

「あ、今、僕を見て、えっ? この人がホスト? って思ったでしょ? ゆきさん」

あっ、えっと、あたしは必死に首を横に振る。ち、違いますって。そういいかえす。

「あ、でも逆にあたしみたいな巨体がいて驚いたのではないですか?」

目の前の彼は特別おどろいた様子ではない気がしたけれどあえて訊きたくて質問をした。こたえは期待通りのものではなくてむしろあたしのささくればった心を癒した。

「ははは。はい、驚きました。すみません。けれど、これほどまでふくよかな女性初めてで逆に興味がありますね」そこまでいってあたしを抱きしめる。わ、男性に抱きしめられている。いい香り。男性ってもっと獰猛な匂いの印象があった。

「けれど、ゆきさん、僕もそうですが、人間は見た目ではありません。その人にはその人の良さがあって人生があって、こうやって出会った縁はきっと最初から決まっていたんですよ。どうかゆきさんが僕と出会ったことで吉になりますよう」

背中に腕が回る。まあるい背中。大きなお腹。それでもみすずくんはあたしをきつく抱きしめた。あたしの頭を抱え込むような形になる。目に入ってくるのはみすずくんのスーツのズボンだった。

あっ、視界に拾ったものを見て声を上げる。なに? 上から声がしてみすずくんがあたしから離れた。「かわいい顔してるね。ゆきさん。うん、顔が赤くなってる」

「もう、嘘いわないでよ」

正直嘘でも嬉しかった。キスをしてほしい。会話が和んできたころお願いしたら、目を閉じて。の声と同時に唇に温かいものが触れた。涙が出るほど嬉しかった。

それ以来何度も指名でみすずくんを呼びその度にあたしはあかるくなっていったし『最近痩せたみたいね』と仕事先でいわれた。

人生の諦観からの脱出が『女性向け風俗』だった。けれど今あたしはますます元気だし毎日がひかってみえる。

「ふふふ」

あたしはあの日みすずくんのスーツのファスナーが開いていたのを見つけてしまったのだ。チャックを閉め忘れるホストなんているのかしら。あたしは盛大に笑った。忘れかけていた笑顔に次の日顔が筋肉痛になったくらいだ。

「笑って生きないと損ね」

買ってきたパンジーに水をやりながら初夏の日差しに目を細める。

この記事を書いた人

エロいことが好きな謎のアダルトライター 基本的には眠ることが一番好き